アーバンフォレストをつくるためのブロック

Comoris BLOCKは、自然と都市生活の距離を近づけるための方策として、都市の隙間に小さな森(=人を含めた生物多様性の豊かな場)をインストールするためのデザインキットとしてプロトタイピングしたものだ。例えば工場跡地や空き家にマインクラフトのようにブロックを積むことで、誰でも簡単にランドスケープをデザインすることができ、同時に土壌改善や植物育成を進めることができる。

それは、人新世と呼ばれる時代において、人間だけでなく、植物や動物、微生物といったモアザンヒューマンにまでステークホルダーを広げたデザインのプロトタイプともいえる。米ぬか、おがくず、竹炭などの有機物から構成されるブロックは、様々な生物によってだんだんと分解されていく。多様なアクターの関係性によって活用され、元の形を失い土に還っていくことで植物の生育を助け、周囲の環境再生を促す。分解されてカタチが消失すると完成する、いわば「生きているブロック」だ。

人を中心としたデザインではなく、多種によってどう活かされるかを念頭に置いたブロックは、デザイナーだけではコントロールできないような現象に焦点を当てたデザインとなっている。

ComorisBLOCK 02 Keizo Kioku

ComorisBLOCK 03 Matthew Masayuki Crilley

21_21 DESIGN SIGHTでの展覧会「Material, or」(2023)に展示したインスタレーションでは、ブロックの成り立ちから分解過程までを俯瞰できるようなストーリーテリングとして作品を配した。屋内の展示室にはブロックを構成するマテリアルを散りばめ、ガラス窓を挟んで続く屋外では、ブロックによって小さな森をつくり、まさに分解のプロセスの只中に置くことでその変化を観察できるようにした。ブロックが組み合わさってつくりだされた風景は、来館者が楽しく観覧する場を形成すると同時に、植物や昆虫といった人間以外の生物種のための居場所ともなる。

安藤忠雄のコンクリート建築の中心に置かれた「生きているブロック」は、多種多様な存在と出会い直して共に場をつくるという、コンクリートブロックとはまったく異なる作用を都市に及ぼす。それは、今後人間が自然とどのような関係を築いていくべきなのかという、近代社会、近代開発への根源的な問いを投げかける。そして将来、ブロックが活用され、都市に偏在する隙間に小さな森が増えていくことで、人々の行動変容や、都市における生物多様性とレジリエンスの向上へとつながっていく、新しい風景を想像することができるだろう。

ComorisBLOCK 04

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土着の知恵を取り入れる

Comoris BLOCKは、かつて日本に当然のようにあった自然と共生するための技法や知恵を参照している。前近代の農民が実践していた里山管理の技術、つまり、森から資源を採集して暮らしの中で活用し、それをまた森に還すという資源循環と環境再生の技法だ。それらは現代の消費行為とは異なり、身の回りにある素材を活用した複合的な循環システムの一部を担う民衆のデザイン実践とも解釈することができる。

今日では忘れ去られつつあるこのような技術は、「Lo-TEK(ローテク) Design」とも呼ばれていて、ACTANT FORESTのリサーチ過程でよく参照している。だが、noteで紹介した著書の中では先住民族の実践事例は紹介されているものの、未来のデザインにどう活かしていくべきかはクリアに示されていない。Comoris BLOCKは、「Lo-TEK Design」という概念をさらに先に進めるための検証プロセスから導かれたものだ。

実際に森の中で古来の共生技法を学び、自分たちで試してみると、経験値の少ない都市生活者にとっては難易度の高い作業であることがわかった。そこで、里山で活用されてきたマテリアルを集め、マインクラフトのようなブロックの形状として成型することで、現代生活でも使いやすい汎用性の高い「デザイン」へと変換した。

ブロックを構成する素材である落ち葉や米ぬかといった有機物は、養分として微生物や植物を活性化させる。もみ殻や薫炭や竹炭といった素材は、空気や水分の循環を促進する。さらに、炭の多孔質空間は微生物が増殖するための快適な住処となる。これらの素材を、お香などに用いられるたぶ粉で結合させてブロックとして固めた。

里山での実践知を都市に持ち込む。そのイメージを実感してもらうためのプロトタイプとしてComoris BLOCKは制作された。

ComorisBLOCK 06 Matthew Masayuki Crilley

ComorisBLOCK 07 Matthew Masayuki Crilley

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マルチスピーシーズ・ホテルとして

ブロックにはいくつかの穴が穿たれており、植物や昆虫など人間以外の生物にとって、ホテルのような場としても機能する。その穴に植えられた樹木や草花は、有機物によって活性化した微生物や菌根菌と共生しながら力強く育つ。そうして繁茂した植生に昆虫や鳥が集まってくる。ブロックの穴は、トカゲや蜘蛛、カエルたちのための絶好の隠れ家ともなる。Comoris Blockを起点に、様々なアクターが立ち寄る休憩所やホテル、あるいはマンションのような環境が形成されることになる。

ComorisBLOCK 15 Matthew Masayuki Crilley

実際に展示された小さな森には、真夏の六本木のコンクリート建築の中庭という過酷な条件にもかかわらず、わずか3か月の間に多種多様な生物が集まった。小さなトカゲ、クモ、アリ、ミミズが定住し、時にはトンボやカメムシも観察された。撤収時にブロックを剥がすと、白い菌糸が美しい網目をつくって広がっている様子も観察できた。

ブロックの機能や効果、意味は、その土地の気候や生物といった様々なアクターの活動の絡まり合いによって刻々と変化する。Comoris BLOCKは、ひとつの課題解決を達成しようとする近代デザインの命題から離れた、それぞれの視点によって意味や役割が異なる多元的なデザインを目指したものだといえるだろう。

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コデザインのためのインターフェース

前近代においては社会の中での共同作業の比率が高く、人々は近隣の森を共有地(コモンズ)として、時として共に働き、資源を共有していた。Comoris BLOCKは、現代の分業化されたデザインとは異なる生産プロセスを前提として、誰もがDIYで制作できるシンプルな形状とした。ワークショップ形式で制作することができるため、都市部などでも、その場に集まった人々で共同制作を進めることができる。完成したブロックは、可変的なユニットとして並べたり積み重ねたりできるため、どんな形状の土地でも、地域住民が容易にランドスケープづくりに参加することができる。

また、基本のマテリアルに加え、各地域で入手しやすい材料を混ぜることで、独自のレシピをつくることもできる。東京であれば、廃材やコーヒーかすなど、都市部で多く排出される素材を混ぜ合わせた資源循環型ブロックになる。ACTANT FORESTのある山梨県の森であれば、外来植物を駆除する際に燃やした灰を混ぜて、土壌改善のためのブロックにすることも可能だ。地域特有の資源循環に役立つようレシピを変えることで、その場所ならではのブロックとなる。それらが植生や生態系を再生させながら、地域に根差した場づくりの足掛かりとなる。

Comoris BLOCKは、かつて村落共同体で営まれていた資源循環を現代都市生活と接合するためのインターフェースだ。それは、工業的な生産システムと前近代的な営みの間にある綻びを再度結び合わせるためのトリガーとなり、人同士のコミュニケーションを促すと同時に、多種の絡まり合いを促す。都市において、新しいエコシステムやコミュニティをつくり出す契機になるかもしれない。

ComorisBLOCK 13 Matthew Masayuki Crilley

ComorisBLOCK 12 Matthew Masayuki Crilley

ComorisBLOCK 14 Matthew Masayuki Crilley

ネクストステップ:レシピの多様化

展覧会終了後、Comoris BLOCKは北杜市の森に移設された。森の生態系の中でブロックがどのように変化していくのか、より長い時間のスケールで、ブロックが発揮する効果を観察していく予定だ。人新世と呼ばれるこの時代に求められるのは、次世代につながるような長期にわたって課題に向き合う時間感覚を持ったデザインなのではないだろうか。

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今後は、ブロックのレシピの多様化を進めたいと考えている。レシピを自由にアレンジできるということは、ブロックの効果も自由にデザインできるということだ。今回の展示では、基本となるブロックを制作したが、混ぜ合わせる素材や種によって、それぞれの土地に相応しい効果を付加することもできる。例えば、種を埋め込んでシードボムのような機能を付加したブロックや、送粉昆虫のための庭を形成するブロック、土壌汚染を浄化するファイトレメディエーションのための植物種を混ぜたブロック、フードフォレストのためのブロック……などなど。次のステップでは、このようなキットやレシピの作成を試みる予定だ。

これまでのデザイナーは自らの自律した価値に基づいて枠組みを定めて、それをベースにモノやサービスをデザインしてきた。このような近代的なデザインの思考は、多種の存在を含めた複雑なエコシステムをうまく対象にすることができず、単純化のプロセスによって人間以外の存在を犠牲にしてきた。対して、ACTANT FORESTでは、自分自身の手で木を切ったり植樹をするという実際の経験に基づいてデザインと世界の関係を結びなおすということを試みている。そのことで近代的な思考の枠組みを一旦外して、デザインをアップデートする契機を探っている。

経済、政治、テクノロジー、社会科学、あらゆる分野で気候と環境の危機に対応する変革が求められている状況で、デザインの強みは、その実践力にあると考えている。常に経験が先んじるプラグマティックな営みがデザインの強みだとすれば、ぼんやりとした未来に対してクリアなイメージを提示することで、デザイナー以外の人々の想像力を喚起し、持続可能な社会に向けた変化を促進することが可能となるかもしれない。

自分自身が主体となって対象に働きかけるコントロール型のデザインではなく、自然環境の中で相互に反応しながら循環のバランスを図っていくような環境共創型デザインとはどういったものか、引き続き森の中で探索していきたい。

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  • 協力:奥田宥聡(Poietica)
  • 写真:木奥恵三、Matthew Masayuki Crilley